脳性麻痺クロスはさみ肢位を美しく治す

 

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脳性麻痺クロスはさみ肢位の治療

選択的痙性コントロール手術の理論が生まれた

 

 さて、このようなクロスはさみ肢位治療の問題点を拾い上げ、これを解決するために色々な工夫を重ねてきました。選択的痙性コントロール手術はこの工夫の過程で形づくられていきました。三つの内転筋・短内転筋、長内転筋、大腿薄筋のうち、かたくて長い二関節筋である大腿薄筋だけを股関節の側で選択切り離します。しかし、短内転筋はやわらかく、股関節で体を支える重要な筋として温存します。長内転筋もやわらかい一関節筋なので当然温存します。

 内転筋は最初に切ってしますと、後でどんなに素晴らしい手術をしても内転はとれません。ぐらぐらの弱々しい寒々しい手術になります。

 もう一つの大事な事は、短内転筋と長内転筋の二つの内転筋は解剖学的には股関節を外向きにねじる筋なのです。これを切ったら逆に内にねじれてしまいます。という事で、

 

第一のステップは:

 クロスをおこす筋として大腿薄筋という股関節の内側の薄い筋だけを切るのです。さあ、これで股関節が少し外向きに開くようになります。そう、一つひとつうちねじれをおこす筋をゆるめていく科学性が求められるのです。思いつきで長・短内転筋を切っては泥沼にはまり込むだけなのです。

【参考までに、この三つの内転筋群の分析の中から選択的痙性コントロール手術の貴重な原理が生まれます。

 短内転筋:一関節にまたがる短いふっくらとした筋=体を安定させる筋=体の重要な支持筋です。

 大腿薄筋:二つの関節にまたがるながく筋張ったかたい筋=体を安定させる筋ではありません。

 

 短内転筋=ふっくらと短い一関節=ゆったりと動き、支持性は高い。

 大腿薄筋=長くほっそり二関節=荒々しく動き、支持性はありません。

 

 脳性麻痺では、一関節=体を安定させる=温存すべき、

        二関節=荒々しく動く=緩めていい

というものです。すごい発見です。

 アメリカの雑誌「Journal of Paediatric  Orthopaedics」第6巻に私の研究として報告されました。選択的痙性コントロール手術理論の出発点でした。

 有名なアメリカの整形外科手術書「キャンベルの手術書」の中に私の論文が紹介され“短内転筋は切ってはならない”と書かれています。

 これで二つの関節にまたがる長い筋(大腿薄筋など)は切り離して痙性だけを取り除けます。一方でふっくらとした短い筋は脳性麻痺の治療では温存して体の支持力を強めるという選択的痙性コントロール手術の原理が浮かび上がってきたのです。

 

第二のステップは:

 股関節の前のところで股関節を曲げる筋のかたい緊張をとり去るというものです。曲げる筋の代表の一つは腸腰筋という太い長い筋で、クロス変形を引き起こします。これをゆるめないとクロスはなおりません。

 そこでアメリカの先生方は腸腰筋を一気に切り離し、きりはなして関節の包に縫い付けたりして、股を伸ばそうとします。しかし、この筋を全部伸ばそうとすると体を支える力が弱くなり不安定な股関節になります。私はそのまま採用する気になりません。

 そこで私は選択的痙性コントロール手術の理論を採用してみようとしました。腸腰筋は二つの筋が合わさって出来ています。大腰筋という長い筋と腸骨筋というふっくらとした短い筋とに分けられます。選択的痙性コントロール手術で考えると大腰筋は長くて太くて荒々しく体を前に進める筋、腸骨筋は短くふっくらとして、立つ時に体を支える筋となります。

 その通りに荒々しく働く大腰筋だけをおそるおそる緩めてみました、延長してみたのです。

 これは約40年ほど前の話です。これでクロス内ねじれの脳性麻痺姿勢はかなり良くなったのです。でもこの二つのレベルの痙性コントロール手術ではまだクロス変形はなくならなかったのです。その次のかたい緊張した筋を見つける戦いがその後数年続きます。

 

第三のステップ

 大腿直筋の中枢腱延長です。これで腰が伸びてきます。股関節をのばす大事な手術です。股関節をやわらかくすっきり伸ばすには、ここまで踏み込む勇気が要ります。この手術はあまり関心は持たれませんが、股関節をのばすのに大事なステップです。九州大学の二代目神中正一教授がポリオの股関節の治療に導入され、わたくしの先輩和田博夫先生がが引き継ぎ、私が受けづいた重要な手術で、現在選択的痙性コントロール手術を行う仲間に脈々と引き継がれています。股関節のかたい緊張痙性を除く手技の一つとして欠かす事の出来ない重要な手技です。

 大腿直筋は二つの機能をもっています。一つは股関節を曲げる機能であり、もう一つは膝をつっぱり伸ばす筋であります。二関節にまたがる太いかたい頑丈な筋で脳性麻痺ではかたく緊張し股関節が人の動きのように伸びなくなり、かたいかがみ股屈曲位を引き起こします。これを横に切り開くと、この筋の股を曲げる力が弱まり、股関節がすっと伸びてくるのですね。勿論股を曲げる力は弱くなりますが、その曲げる力はほかの筋・腸骨筋、中殿筋、長い短内転筋などのやわらかい短い筋で補ってもらうのです。

 股の手術では、この大腿直筋ともう一つの大腰筋という二つのかたい荒々しく動く筋を両方とも確実にゆるめないと決してすらりと美しく立てるようにはなりません。

腿直筋を切離あるいは確実にに延長するという事がなのです。

 なかなか単に痙性コントロール手術といっても大変なのがおわかりでしょう。熟練された技術に裏付けされたマヒの医学なんです。

 

第四のステップ

 三つの内転筋(長内転筋、短内転筋そして大腿薄筋)のうち、長内転筋、短内転筋は重要な股関節外転筋という分析を第一ステップでおこない、その温存の重要性を語りましたが、一方もう一つの内転筋・大腿薄筋という薄っぺらな大腿薄筋は、間違いなく内転筋そして内旋筋なのですね。

 これを切らないで温存すると内転、内旋変形歩行が残っています。断固として、股関節に近い腱の部分で基準的手術として切離し、内転、内旋変形を矯正いたします。でも、これまでの腸腰筋切離、大腿直筋延長そして大腿薄筋の切離だけではとてもあの頑固な内転、内旋変形は治りそうもありません。

 これをどう打破していくのでしょうか?

 

第五のステップ

 大内転筋の発見、新しい時代に入ります。

 さて、これまでの課題で長内転筋、短内転筋の重要さを知り、これを切り離さない治療を模索する私達はそのほかの内転、内旋をおこす筋を見つけようとします。

 そしてもう一つの内転筋・大内転筋の存在に気づき、この筋の機能を解剖学的に分析し、この強大な筋に内転、内旋機能がある事に気づきます。この強大な内転筋の内転、内旋力をゆるめれば内旋変形は少なくなるではないか?

 こうして大内転筋に顆部ハムストリング腱と内転枝という二つの部分があり、このうちの腱の長い顆部ハムストリング腱部だけを選択的に切り離す切腱手術を生み出すことになりました。

 この手術の効果は革命的で、あの頑固だった股関節内旋内ねじれ変形が大きく除かれる事になったのです。私の英文著書”Cerebral Palsy:Orthopaedic SelectiveSpasticity-control Surgery"に公表されたユニークに見える手術手技で脳性麻痺に対する整形外科手術の効果をはっきり示してくれるものとなりました。

 この整形外科手術の中核となる大事な手術は私達の選択的痙性コントロール手術の中核に位置するものとなっています。

 さあ、目が覚めるように美しく治る第一歩が踏み出されます。

 

 さて、ここまでは股のくろす、内ねじれを引き起こす股関節のまわりの原因筋についてお話してきました。でもそのほかに膝の動きと一緒に動く内転、内旋筋があります。これをゆるめる手術が必要になります。

 

第六のステップ

 第六のステップは膝の内旋筋、内側ハムストリング筋の延長術。この筋は頑固な、最も荒々しく働く内ねじれ筋です。これをやわらかくゆるめないと内ねじれ変形は決してとれる事はありません。

 これをどうやってゆるめるか大きな大きなテーマなのです。股関節の方でゆるめると股関節が曲がってくずれてしまって、股をのばす事ができなくなります。膝の方でゆるめると膝がまっすぐにつっぱってしまい、伸びきったやわらかさのない膝になり、やくに立ちません。という事でこれらの筋バランスをくずさないように色々と細かいしかも大事な工夫を加えていくのです。

 そこで少し専門的になりますが、半膜様筋というハムストリング筋は股関節の方で、半腱様筋の方はは膝の方でゆるめるのです。” 

 さあこれで頑固な内旋・内ねじれ変形がもう一歩軽くなっていくのです。内旋・内ねじれを治すのは大変ですけど、一つひとつ頑固な内旋因子を除いていく事で可能にになってくるのです。

 

第七のステップ

 膝の大腿直筋の末梢をゆるめる。

さあ、内旋股内ねじれ、クロス治療もまもなく克服です。あと一歩のところです。

 第6ステップで内側ハムストリングという膝裏のかたい筋をゆるめて、かたい内ねじれをよわめましたが、このハムストリングという筋は本来の働きとして筋を曲げる筋になります。そこでこの筋をゆるめますと、膝が伸びてつっぱった形になり、弾力性のない棒のような動きに変わり、やわらかく曲がっての歩きが出来ません。

 そこで膝を棒のようにつっぱらせる筋・大腿直筋という筋をふんわりとやわらかくするために、腱の部分だけ切り離す手術をするのです。膝の曲がりがスムーズになり、つっぱった棒のような歩きが消えるのです。これまで考えたこともないようなすごい手術です。

 

第八のステップ最終ステップ)

 内旋・内ねじれを求めてのクロス肢治療の旅もとうとう最終ステップになりました。

 その昔40年も50年も昔の事です。大腿筋膜張筋は主な内旋筋として、この筋の移行、切離術が語られた時代がありました。香川県ひかり整肢園長寺沢幸一先生はこの筋と中臀筋の一部に内旋作用があるという欧米の先生方の発表を取り入れ、日本で始めて大腿筋膜張筋の後方移行術に取り組まれた先駆者でした。

 ボストンで開かれたアメリカ脳性麻痺学会(AACPDM)の学会に内ねじれ肢位に対する大腿筋膜張筋の移行術を発表され、私は先生の論文発表に後輩としてお伴をした事を思い出します。

 しかし残念な事に私はこの手術を用いても全く股関節の内旋は少なくならず、長い間、効果ない手術として採用しなかったのです。なぜか?それはほかの内旋筋を放置してゆるめることなく、大腿筋膜張筋だけをゆるめていたからです。長内転筋も切離していました。これでは内旋が頑固に残り、頼りがいのある手術になれなかったのです。

 しかしながら、その後いくつもの内旋矯正手術を一つひとつ組み合わせ内旋を少なくしていく最終の段階で、この見捨てられた内旋筋がもしかすると有力な内旋筋ではないかと思い出される事になります。私にとっては一種のリバイバル手術となります。

大腰筋切離、大内転筋切離、大腿薄筋切離、内側ハムストリング切離と内旋筋を一つひとつゆるめていった後に大腿筋膜張筋をゆるめますと、なんと夢のようにあの頑固な内旋・内ねじれ歩行が消えていくのです。勿論、長内転筋は残さなければなりません。

 今、私達は充分に内旋変形を治した上で、さらにこの大腿筋膜張筋の延長術を復活させる事により、脳性麻痺の皆さんに美しい力強い正常に近づいた歩行スタイルを準備する事が出来るようになりました。

 簡単なようですが、この大腿筋膜張筋を正確に確実にゆるめてしまうのもまた大変です。筋を多少とも残すと内旋が残ります。切りすぎると中臀筋の力が弱ります。繊細なテクニックが求められる最終の局面です。

 おさらいです。クロス股内ねじれ立位、歩行の治療には

①長、短内転筋を切らない。温存する。

➁大腰筋だけを切る。腸骨筋は温存する。

③大腿直筋腱中枢を切離する。

④大腿薄筋中枢を切離する。

⑤大内転筋顆部腱を切離する。

⑥大内転筋内転枝の筋腱移行部で腱部を延長する。

⑦内側ハムストリングの延長術を工夫する。

⑧大腿直筋末梢筋腱移行部を延長する。

⑨大腿筋膜張筋の中枢腱移動術を行う。

というステップを正確にふんで脳性麻痺クロスを美しく、やわらかく、力強くじぶんの思うように動かし治していくのです。

 脳性麻痺はこのように運動筋系の医学すなわち本当の意味の科学で科学的思考を使って美しく治せるようになってきたにですね。運動医学の誕生といっていいのでしょう。

 動画の4をご覧になりませんか。かなり正常に近いスタイルに変っているでしょう。こんなに良くなりました。

動画4作成中、、、