フォーカルジストニアを整形外科で治す

 最近、局所性ジストニアに苦しまれているミュージシャンのブログを拝見しました。冷静に自分の病を観察されていて慎重に治療されている由、共感する所も多く、フォーカルジストニアについての整形外科医の考え方と治療してきた経験を述べてみます。

まずフォーカルジストニアの発生原因について:

 私は私の治療経験を通じて基本的にフォーカルジストニアは脳の異常だけによって起こる病気ではないと考えています。脳の異常がなくても起こって得る。ここが私の治療の出発点です。

 人間のからだの中には太古の昔、トカゲやワニのような地面を這って生きていた時期に使われていた、荒々しくすばはやく動く多関節筋という長い筋群と、人間となって体を地表から持ち上げるために発達した短関節筋があります。必ずこの二つの種類の筋は共存しています。このうち単関節筋はやわらかく小さいけど体を持ち上げる抗重力筋なのですね。指では前腕から指先まで走って指を曲げる荒々しく動く多関節筋と第1関節のまわりでやわらかく指を曲げる人特有の骨間筋(抗重力筋)があるのですね。この骨間筋というのはやわらかく人特有のふっくらした筋なのですが、やわらかく傷つきやすい人特有の重要な筋なのです。一方多関節筋は野性特有の頑固な傷つきにくい筋なのです。という事で人がバイオリンやピアノなどの楽器を弾くとき、普段の生活であんまり使わない形で指を繰り返しす事になります。あまり繰り返し力を入れる弾き方をすると、骨間筋の方が疲れ、傷つきやすく擦り切れのではないか、と考えます。フォーカルジストはこの繰り返し運動による単なる手指をやわらかく動かす骨間筋擦り切れによって起こる骨間筋擦り切れ症候群だと考えるのです。もう一つの指を曲げる多関節筋は野生の筋ですから、楽器のレッスンぐらいでは決して擦り切れない頑固な筋と考えられます。この頑固な長く太い筋は骨間筋の協力が得られないと勝手に気ままに動いてしまいます。これがジストニアととらえられるのですね。

 これが普通人類であまり経験しない楽器を奏でてのくりかえしの指の動きで骨間筋は疲れ切って擦り切れます。するともう一つの野生の多関節筋が暴れだします。やわらかい骨間筋が一緒に働かないので動きが荒々しくなめらかでありません。人特有のやわらかい指など夢の夢になります。指の荒々しい動きは脳からでなく、指の小さな筋の擦り切れで起こるのです。骨間筋の方はとても上品で傷つきやすい。手術を絶えず行っている人いつわらざる 感触なのです。

 

新しい視野で治療を考える:

 ところで、あなたの擦り切れた骨間筋は再生する事はありません。無理にレッスンを強行するとさらに骨間筋が擦り切れ指の巻き込みがひどくなるだけなのです。一方もっともっと積極的な治療法はないのか、指の動き良くして豊かな人生を送れないかというのが最大のテーマになります。

 私は脳の手術でなく、手のひら、前腕の手術でこのジストニアを治します。脳性麻痺という病気にはあなたと同じ指のジストニアがあります。手のひら、前腕で指のジストニア筋をゆるめ、やわらかくして動きの悪かった骨間筋を働きやすくするのです。脳性麻痺ジストニアの分野では、この指のジストニアを軽くする手術が日々行われています。動画例11(図1術前、図2術後)をご覧ください。動きの悪いジストニアの指がやわらかくなっています。4本の指の巻き込みが見事に治っています。この考えで頚のジストニアも美しく治っています。HP:「頚部ジストニアの整形外科治療」をご覧になりませんか、恐怖の頚部捻転ジストニアも跡形もなくなっています。もうジストニアは私の所できれいに治る病気なのです。

 勿論脳神経外科の方でも研究が進み、脳の視床部焼灼手術で多くの音楽家が再起されたとされます。これも勿論フォーカルジストの有力な治療のひとつである事に間違いはないようですね。しかし頭で穴をあけて脳の一部を焼くという取り組みは怖さがありますね。どんな副作用が出てくるかわからない不気味さもあり得るような所もあります。

 その意味では腕の一部の場所で荒々しく動く筋の一部の腱をゆるめ、短関節筋の働きを高め、やわらかい筋の働きを高め、手指の動きを高めるという選択もあり得る時代になっています。脳を触らなくても、腕での一部で硬い腱を緩めるだけの手術でも指はやわらかく動くようになります。運動医学の中の整形外科もお役に立てると思います。何の怖さも副作用もなく短関節筋の動きを活性化するだけで、特殊な指の使い方をする美容師のフォーカルジストニア、頸の傾きを強いられる歯科衛生士に起こる頚部ジストニア、二次性ジストニア(アテトーゼ)の指なども治っていくのです。

 重いカメラを機器を片方の肩にぶら下げて走り回る写真家におこる頚部ジストニア、徹底の夜勤を強いられるサラリーマンに起こる体幹ジストニアなど人の恐怖のどん底に落とし込むジストニアはまさに現代病として増加つつあります。その予防、治療にはあらゆる科学の力を傾注して、この闇の中にいる方々を明るい世界に甦らせたいものです。